• 大宮駅東口徒歩1分のシェアオフィス・レンタルオフィス

【埼玉の社長に訊く起業ストーリー】はシェアオフィス6Fのスタッフが埼玉県内で活躍する「社長」を訪ね、お話を伺う連載です。


大宮氷川神社の参道のほど近く、突如現れるのはズッシリと身構え、通りを見つめるブロンズ色の大きな釜。思わず立ち止まって眺めてしまうこの釜で煮込まれているのはモルトとホップ。そう、なんとここはクラフトビールの醸造所。

 

氷川ブリュワリーの外観

 

“『こんなところに醸造所が?』と驚く人も多いんですよ。醸造所というと地方や観光地などに多いイメージがあるでしょ?”

 

気さくに話すのは、ここでクラフトビールの醸造・販売を行う氷川ブリュワリーの創業者である菊池俊秀(きくちとしひで)さん。
さいたま市では唯一のクラフトビール醸造所です。

「地元である埼玉を元気にするクラフトビールづくり、そしてクラフトビールというコンテンツで地域のコミュニティを作り出したい」という菊池さんのこだわりのもと作られるオリジナルのクラフトビール、そして醸造所に併設するパブに込められた想いを伺いました。

 

大宮の街が危ない!

2013年、大宮駅東口の大型商業施設の閉店・移設は、大宮銀座通り商店街の人々や市民にある不安を覚えさせました。
「便利なお店が駅直結な場所に集中してしまう。このままでは駅の中から人が出て来なくなるのではないか。」
人々に町の中を歩いてもらうには、何らかの目的が必要なはず。その何かがないのであれば、新しく作れば良いのではないか。そんな想いのもと、「クラフトビール」というコンテンツで、地域の活性化に貢献している人がいます。

 

クラフトビールを注ぐ菊池さん

 

菊池俊秀さん。さいたま市大宮区で、市内初のクラフトビールの醸造・販売、併設するパブの運営を行い、休日には街のイベントなどにも数多く出店するクラフトビール醸造家です。

 

さいたま市には、地元の名産品がないなんてよく言うでしょう?だったら新しく作ればいいだろうと思ったんですよ。
昔から趣味でクラフトビールの醸造体験を続けていたんです。自分の好みに合わせたビールを作ってみたいと思ってね。

 

オリジナルのクラフトビールが出てくるタップ
2014年にオープンした氷川ブリュワリーでは、氷川の杜シリーズという菊池さんのオリジナルレシピのクラフトビールを中心に醸造。併設するパブで、作りたてのビールを味わうこともできます。原料には、埼玉県産の農産物を取り入れるなど、地域との繋がりを意識した醸造を行っているそう。モルトの甘みやホップの苦みなど、好みに合わせて様々な味を比較でき、クラフトビールの奥深さを体験できるのも魅力のひとつ。地元の人を中心とした常連客や、その紹介で訪れる人など、パブはいつも温かな雰囲気で溢れています。

 

先日、夫婦で来てくれたお客さまが「地元のクラフトビールをお歳暮にしたい」とおっしゃってくれて。自分のクラフトビールが人を繋いでいるということを実感できるのは、とても嬉しいです。

 

「人と人、人と地域を繋げたい」そんな菊池さんの強い信念の原点はどこにあるのでしょうか。

 

地元と繋がりのある第2の人生を

大学時代は機械工学を専攻していたという菊池さん。卒業後は日本光学工業株式会社(現株式会社ニコン)に就職し、生産技術を担当。カメラや半導体製造装置などを製造するための機械、検査装置の開発・設計に携わりました。
 

色々な機械を作り出してみて、うまくいったりいかなかったり。まさに、ゆりかごから墓場までっていう感じで。かなり忙しい時期もありましたが、「世の中にない新しいものを作り出すこと」が楽しくて、辛さはほとんど感じませんでした。

 

カメラについて語る菊池さん
様々な機器の開発に貢献した菊池さんは、10以上もの特許も取得。レンズ内超音波モーターや半導体製造装置内のリニアモーター技術の立ち上げなどにも携わり、日本国内のみならず海外のラボや工場でも活動しました。

 

50歳を過ぎた頃、第2の人生についてふと考えたんです。朝から晩まで都内で働いているけれど、住んでいるのは埼玉県。退職したら周りの人とのコミュニティがなくなるなって。そんなときに見つけたのがコワーキングスペース7Fでした。大宮に住む人、働く人、色々な人が集まることができるコミュニティスペース。「こういうことをやりたい!」って正直先を越されたような気持ちでした(笑)。

 

生まれも育ちも埼玉県の大宮という菊池さんは、シェアオフィス6Fに併設するコワーキングスペース7Fのオープン当初からの利用者さま。コワーキングスペース7Fで出会った「地域で何かをやりたい!」という想いを共有する仲間と共に「I love SAITAMAプロデュース」という任意団体が立ち上がりました。

 

I love SAITAMAプロデュースのメンバーは、会社員だったり士業の人だったり、転職活動中の人だったり、本当に様々で。定期的にコワーキングスペース7Fに集まって、地域のことを話し合ったり楽しくお酒を飲んだりしていました。
そんなときに、市民中心のイベントを開催しようという話があがって。日曜日に歩行者天国になる大宮の銀座通りで、商店街の人たちを巻き込んだイベントを開催したんです。

 

地域で活動する仲間との交流は、まさに大人の部活、文化祭のようだったと話す菊池さん。イベントでは、その日のためにメンバーで練習を重ねたというフラッシュモブや青空卓球、化石掘り出し体験など、市民一体型、そして体験型を意識したそう。

このイベントには、地域の人たちがたくさん来てくれてかなり賑やかでした。その後も氷川参道などで同様なイベントを開催したり、市民主体の活動は継続しています。

 

街を盛り上げる根本的な「何か」を作り出す

コンテンツがあれば、街は盛り上がる。それを実感した菊池さんはその時、「さいたま市ニュービジネス大賞」と出会います。「さいたま市内で展開される独自性のあるビジネス」、「市内の経済発展や地域ブランドの開発に貢献するアイディア」。さいたま市ニュービジネス大賞で求められているコンテンツは、まさに菊池さんの問題意識と合致していました。

 

さいたま市ニュービジネス大賞の表彰内容は、受賞者に対して「そのビジネスが軌道に乗るまで徹底支援する」というもの。賞金をもらえるわけではないんです。いくらお金があってビジネスが立ち上がっても、それが継続しなければ意味がない。そこを加味した表彰内容に感銘を受けました。

 

早速I love SAITAMAプロデュースのメンバーや7Fで知り合った人々にニュービジネス大賞の話を持ち込んだ菊池さん。メンバ-それぞれ自分のアイディアをエントリーシートに書き綴りました。そんな中、10年以上趣味で続けていたクラフトビールづくりの経験をもとに、大宮の地域ブランドとしてクラフトビールを提案。仲間たちの強い後押しもありエントリーを決意しました。

 

どっぷり技術者だった私は、事業計画書なんてもちろん作ったことがなくて。I love SAITAMAプロデュースの仲間と何度も計画書を読み回しては修正するという作業を繰り返しました。プレゼンテーションの練習もしましたよ。

 

「地元のコミュニティがない」そんな不安を抱えていた菊池さんは、いつしか「大宮を盛り上げたい」という同じ想いを持つ仲間たちに囲まれていました。

当時の想いを語る菊池さん

”審査が進むにつれて、「自分の夢」が「みんなの夢」に変わって行く実感がありました。”

 

街の中に「人が集まる」醸造所を

見事、さいたま市ニュービジネス大賞のコミュニティビジネス賞を受賞した菊池さん。単にクラフトビールの醸造所を創設するのではなく「クラフトビールを通して地域のコミュニティ形成」という点が評価されました。実はこのとき、菊池さんはまだ現役の会社員。早期退職は視野にいれていたものの、めまぐるしい早さで事が進んでいたことがわかります。
受賞後間もなく退職し、4ヶ月後には氷川ブリュワリーをオープン、その2ヶ月後には醸造も開始しました。

 

氷川ブリュワリーを本格的にオープンするまでにかなり苦労しました。お店をやる場所を借りるのも、酒造免許の取得も大変で。「辞めるなら今だ」と思う瞬間もありましたが、その度に地元愛に溢れる仲間の協力に助けられました。「みんなで大宮を盛り上げるんだ」というモチベーションを思い出させてくれたというか。

 

そもそも酒造免許というのは、人に対してではなく場所におりるものだそうで、申請から取得まで最短でも4ヶ月はかかるそう。もともとサラリーマンだった菊池さんが、4ヶ月で蔵元としてクラフトビールの醸造・販売を開始したというのは奇跡に近いことだと多くの人が驚いたそうです。

 

「賞をいただいたからには中途半端なことはできない。」と強いプレッシャーを感じました。クラフトビールというコンテンツを通して「地域を活性化する」ことが自分のミッション。つまり、クラフトビールは私にとって一種の手段なんです。でも、だからといって中途半端なビールは作れない。おいしくないものを提供したくはないし、誰もおいしくないものを応援したいとは思わないでしょ?

 

 

現在は、自身のオリジナルレシピをもとにして生まれた「氷川の杜シリーズ」と呼ばれる4種類をベースに、様々なクラフトビールを醸造しています。

 

好みの味を教えてくれれば、その人に合ったビールをつくれます。気軽に立ち寄って気軽に飲める。ここはそんな場所でありたいんです。
いつかは道の駅みたいな場所を作って、ものづくりをしている人、近くに住む人、地元の企業、色々な人が繋がる場所がつくれたらいいな、なんて思っています。

 

煮沸釜とビールの写真

 

大宮氷川神社の参道のほど近く、突如現れるズッシリと身構え、通りを見つめるブロンズ色の大きな釜。この蔵元からクラフトビールが作られる。この蔵元から歴史ができていく。これから生まれる様々な「ご縁」でいっぱいな、そんな醸造所「氷川ブリュワリー」にぜひ足を運んでみてください。何かの「結び」に出会えるかもしれません。

 

菊池さんとの集合写真

氷川ブリュワリーは「飲食店」というよりも「飲み食いしながら楽しく過ごす場所」という雰囲気。そんな素敵な空間ができあがっているのには、「地元でみんながもっと楽しく!」という菊池さんの想いが込められているからでしょう。

 

株式会社氷川ブリュワリー 菊池俊秀さん

氷川ブリュワリーの創業者 菊池俊秀さんの写真株式会社氷川ブリュワリー 創業者。1956年8月生まれ。埼玉県さいたま市大宮区にパブを併設したクラフトビールの醸造所である氷川ブリュワリーを運営。
名古屋工業大学の大学院で機械工学を学んだ後、1983年に日本光学工業株式会社(現株式会社ニコン)に入社、カメラ製造機械の生産技術に携わる。
2013年さいたま市ニュービジネス大賞においてコミュニティビジネス賞を受賞後、氷川ブリュワリーを創設。埼玉県産の原材料を中心としたオリジナルのクラフトビールを醸造・販売する。その実績から、2016年、渋沢栄一ビジネス大賞において「地域活性化クラフトビール事業」がベンチャースピリッツ特別賞を受賞。
2013年よりI love SAITAMAプロデュースの立ち上げに参加。さいたま市内を中心に地域活性化のイベントにも多数出店。埼玉県さいたま市在住。


この記事を書いた人

学生時代はアルバイトスタッフとして、2017年夏からは正社員スタッフとして6・7・8Fの運営をしています。心がほっこりする文章を読んだり書いたりするのが好き。7Fでは、大宮経済新聞をはじめ、7F運営会社であるコミュニティコムでライターとして記事を書いています。学生の頃から環境問題に関する政策提言や国際会議に関わっていて、地域の自然保護や環境教育についてもっと勉強したいと思っています。大のベーグル好き。オタクです。お気に入りのベーグル屋さん・パン屋さんがあったら是非教えてください!



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